大阪地方裁判所 昭和35年(ワ)459号 判決 1960年10月13日
原告 小山観英
被告 国
訴訟代理人 平田浩 外一名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「被告は原告に対して戸籍上愛媛県宇摩郡土居町大字北野二千四百九十二番地真鍋晴紀の戦死に因る公務扶助料金三十万九千五百六十一円を支払わねばならない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、亡真鍋晴紀は原告と亡進藤信義との間に生れた子で、原告が養育し生計を共にしていたものであるが、戸籍上愛媛県宇摩郡関川村(後の土居町)の訴外真鍋喜市と同真鍋フシノの子として記載されていたところ、軍隊に入隊し、昭和十九年十月二十四日午前九時二十分比島方面において戦死し、松山連隊区司令官関谷清から右関川村長に宛昭和二十年五月二十八日亡真鍋晴紀戦死の報告があつた。よつて原告は亡真鍋晴紀の実母として恩給法第七十二条にいう遺族にあたり扶助料の支払をうける権利を有するものであるから、被告に対し昭和二十九年一月から昭和三十五年十二月まで年額金四万四千二百二十三円の割合による公務扶助料合計金三十万九千五百六十一円の支払を求めるため本訴請求に及ぶ、と陳述し、被告の主張に対し、恩給法に定める遺族は扶助料の支払をうけることができ、その遣族は戸籍上公務員と身分関係にあることを要件とするものではなく、又恩給法第七十四条の二は公務員死亡後に戸籍届出のなされた遺族の扶助料支給に関して特別に追加して設けた規定で、訴外真鍋喜市、同真鍋フシノがいずれも死亡したため、戸籍上原告を亡真鍋晴紀の母とする方法のない本件には、その適用はないものというべきである、と述べた。
<立証 省略>
被告代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中、亡真鍋晴紀が戸籍上訴外真鍋喜市、同真鍋フシノの子(長男)として記載されていること、亡真鍋晴紀が主張の日に主張のところで戦死し、主張の如く関川村長に対し戦死の報告があつたことはいずれもこれを認めるが、亡真鍋晴紀が原告と亡進藤信義との間に生れた子であることは知らない、その余の事実はこれを争う。仮に、原告が亡真鍋晴紀の実母であるとしても、恩給法に基く扶助料は戸籍上親子関係のない者には法律上支給することができないから、(恩給法第七十四条の二)原告の請求は失当である、と述べ、甲第一号証の成立を認めた。
理由
亡真鍋晴紀が戸籍上訴外真鍋喜市、同真鍋フシノの子として記載されていること、亡真鍋晴紀が昭和十九年十月二十四日午前九時二十分比島方面において戦死し、松山連隊区司令官関谷清から関川村長に宛昭和二十年五月二十八日右戦死の報告があつたことはいずれも当事者間に争がない。
そうすると、亡真鍋晴紀の遺族は被告から公務扶助料の支給をうける権利を有するが、亡真鍋晴紀は右のように昭和十九年十月二十四日に戦死しているので、昭和二十三年法律第百八十五号附則第一条で同法律による改正前の恩給法第七十二条が適用されることになり、同条によると、遺族とは公務員、旧軍人等の死亡当時にこれと同一戸籍内にあつたもの及び同条に定めるところによつて死亡当時同一戸籍内にあつたものとみなされるものでなければならないことになるが、原告が戸籍上亡真鍋晴紀の母となつていないことは原告自ら認めるところで、原告は亡真鍋晴紀の死亡当特同人と同一戸籍内にあつたものと認めることはできないから、爾余の争点について判断するまでもなく原告の本訴請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 森本正 菅浩行 志水義文)